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【連載】 委員長 往復書簡 (5)

2017年04月20日

有永浩太 様

岡山のなだらかな山々は、芽吹きはじめた雑木でモコモコとなり、ところどころに山桜のピンクがまざってとてもきれいです。新しい工房の稼働、おめでとうございます。環境も整い、これからますます素敵な作品を作られるんだろうと期待しています。

前回までのやり取りを少しふりかえってみます。有永さんは作り手として、クラフト、工芸、アート、美術といったものが、使い手や伝え手にどのように捉えられているか知りたい、とおっしゃいました。僕が前回の返事で書いたのは、クラフトって日常の暮らしの中にあるものですよね、って事でした。それを受けて有永さんは、「考えること」と「作ること」が一体となった仕事だとおっしゃいました。「考えること」という言葉に、僕はなるほどと思いました。

そこでこんな表を考えてみました。手作業で物を作る仕事は、小規模な製造業のひとつの極限だと思います。ちなみに、僕の仕事のフィールドは、主に個人向けに不動産サービスを提供することで、表で言えば左上になるんだろうと思います。

そして、「手仕事」による作品の生み出し方を、Usual(日常,日用,機能…)/Unusual(非日常,象徴…)、Innovate(革新,独創,未知…)/Conserve(保存,維持,既知…)という2つの軸をクロスさせて考えると、有永さんの作品の捉えられ方のゆらぎのようなものがイメージしやすいんじゃないかと思いました(当然、境界はあいまいで割り切れるものではないし、相対する両方の側面を備えた作品もあると思いますので、あくまでイメージとして)。

クラフトには、既存の技法や意匠をベースにしつつも、そこから手探りで自分なりの表現や新しいものを生み出そうという意志があるように思います。それが有永さんのおっしゃる「考えること」ではないでしょうか。職人として腕があるだけでは成立しない、どんなものを、どのように作り、人に知ってもらうか、自分の頭で常に考え、試行錯誤を幾度も繰り返すことで新しいものが生まれ、付加価値となります。

こうして生み出されたものから、僕たちが何を当たり前だと思い込んでいたか気付かせてくれるような、ハッとさせられるコンテキストを読みとることができれば、アートとして捉えられるかもしれません。考えないと作れないからこそ、クラフトって楽しいし、クラフトって自由なんだと思います。

 

前回、僕の「クラフトフェアってどうあればいいんだろう?」という問いから、有永さんたちが展開されている「のて活動」という取り組みについてうかがいました。「のて活動」は、「のとじま手まつり」というクラフトフェアから派生して、「モノを作ること、それを伝えることをもっと知りたい」、「能登島ってどういうところだろう」という、「知りたいこと、やりたいこと」を実現するためにはじまったとのこと。

その話を聞いて、「クラフトフェアってどうあればいいんだろう?」という問いの立て方自体が間違いだったと気づきました。「どうかあるか」は、「何をしたいか」によって決まるからです。

フィールドオブクラフト倉敷は、「作り手と使い手が自由に交流できるクラフトフェアを開催し、手仕事の魅力を伝えたい」という「したいこと」からはじまりました。手仕事で生計を立てる作り手が、その楽しさを使い手と共有する場、そんな時空を作り上げようとしてきました。

手仕事の魅力を伝えるため、出展者の方には作品を展示して売るだけではなく、制作の背景を伝える取り組みとして、道具や制作過程の展示、実演、ミニワークショップなどをしていただいています。プロの作り手が主催する12のワークショップブースをもうけ、来場者に実際に作る体験をしてもらっています。FOC文庫という2日限りの本屋があるのは、手仕事への知見を深め、手仕事のある暮らしをもっと楽しんでもらいたいと思っているからです。

たくさんの方に楽しく心地よく過ごしてもらいたいので、美味しくこだわりのある飲食店に出店していただいたり、授乳室を設けたり、ベンチを増やしたり、小さなブラッシュアップを重ねています。

有永さんから、「この先のイベントの在り方や、したいこと、こんなことが起こればいいな、ということがあれば教えてください」というご質問をいただきました。僕が有永さんの文章で一番ひびいたのは、「クラフトって考えること」「クラフトの楽しさ」という表現です。クラフトって自由で楽しい。僕は特にそのことを伝えていきたいと思いました。会場はもっとのびのびと気持ちのいい場所にしたい。ワークショップは、子どもにとっても大人にとっても自由なチャレンジの場となって欲しい。出展ブースはクオリティの高い、大人の本気を見ることのできる場所にしたい。そんな風に考えています。

人がクラフトフェアに集まる理由は何でしょう? 作り手に会って直接話をする。質の高い手仕事やここでしか見られない展示や実演に心を奪われる。手を使い頭をひねって、物づくりの難しさと楽しさを体験する。新しい発見や知識を得る喜び。そうした体験の質を高め、より自由に楽しく心地よく過ごすことのできる空間にすることが、フィールドオブクラフト倉敷の向かう先ではないかと思ってます。

岡山は、大きくも小さくもなく、便利すぎもせず不便もなく、山もあるし海もある、いい意味で中途半端でのんびりとしてとても過ごしやすいところです。そんな岡山で生まれ暮らす僕たちの、背伸びも卑下もしないフラットな感覚で、自分たちが楽しめて、自分たちが心地よいと思えるイベントにしていきたいと思っています。そういう意味で、やっぱりフィールドオブクラフト倉敷は使い手のイベントです。だからこそ、能登島で職住一体となった暮らしをされる有永さんの、「それとは少し違った日常もいいですよ」という提案が、僕たちにとって価値あるものになるんだろうと思います。

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5回に渡った往復書簡も、僕のこの返事でおしまいです。たまたま実行委員長という立場になってしまった僕ですが、自分が一体何をしているのかある程度はっきりと認識できていないと気持ちが悪い性分なので、自分がしていること、しようとしていることをじっくりと見つめ直す、またとない機会になりました。有永さんにとっても、同じように有益な機会であったなら嬉しく思います。

2017年の開催まであとわずかとなりました。会場でお会い出来るのを楽しみに、実行委員一同、粛々と準備を進めてまいります。出展準備も大変かと思いますが、体調を崩されないよう、また道中気をつけてお越しください。

2017年4月
能登島に行ってみたい 宮井 宏

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