【開催レポート】作家ブース
2018年05月21日
今回は、記録スタッフと撮影サポーターがペアを組んで会場をぶらぶら歩きながら写真を撮らせていただきました。その際に初出展の方を中心に伺ったお話をこちらでご紹介します。
猪狩 史幸さんは、輪島で塗師の修業を5年積んだ後、岩手県の浄法寺に移住し、自ら漆を掻いて椀を塗るという塗り物の世界では珍しい作り手。
今回岩手県から寄り道しながら一週間かけてはじめて倉敷までやってきてくださいました。
採取したままの漆を使うので、もっとも自然な漆の色です。
赤みの茶色は日にあたると透き通ってより赤が濃く艶を増し生き生きとして見えます。
初椀、盛椀、末椀、と名がふってありどうしてこの名前なのかお伺いしてみたら、漆の採取には、初(はつ・6月中旬~7月中旬),盛(さかり・7月下旬~8月下旬),末(すえ・9月上旬~下旬)と季節を区分するそうで、そこから名付けたと教えてくださいました。
「テントの柱に、役目を終えた漆の木を括ってウエイトにしています。」と言われて、えっ?と後ずさると「もうかぶれませんよ〜」と笑われました。
このあと、また一週間かけてあちこち巡りながら岩手までお戻りになるんだそうです。楽しい旅でありますように。
骨董の雰囲気を持った染め付けの器に興味をもってテントを訪ねてみたのは、福岡県で磁器の器を制作している初出展の佐藤もも子さん。
倉敷にはぜひ出展してみたかったので、とっても楽しみにしてきましたとおっしゃってくださいました。
さらさらっと流れるような筆致の絵皿、一枚にかける絵付けの時間は?と聞いてみたら、手にとって丁寧に説明をしてくださいました。「縁のラインを引いて、ここから順番に書いて…5分もかからないかな〜。」
出展作家のみなさんがこうやって丁寧に教えてくださるので、購入したものにより思い入れが強くなるというお客さんの声もよく聞きます。
稲葉彬子さんも福岡県から初参加です。
陶磁というジャンルですが、実は、彫刻家である稲葉さん。実用品・暮らしの道具を手がける出展者が多いフィールドオブクラフト倉敷では珍しいオブジェの展示に惹かれてお話を聞いてみました。
「まわりを見渡したら、実用品の作り手の方ばかりで、わたしいいのかな?と思ったんですけど、でもみなさんとても興味深く見てくださるので、嬉しいです。」
何がモチーフなのかと聞いたところ、植物だったり、海の生き物だったり、自然のものからイメージを膨らませる事が多いんだそうです。
ひとつひとつ削り、磨き、石彫と同じような工程で作りあげることで陶器をこのような質感に仕上げているのだそうです。どれも掌にのるほどの小さな大きさながら、形が有機的で印象深く、ひとつ飾るとその場の雰囲気を変える存在感があります。
さりげなくインテリアの要になるような、そんなオブジェを暮らしに取り入れるのって素敵な事だなと思いながら歩いていて目に留まったのは、照井壮さんのブースのトルソー。
く、熊がいる…。
ふと見ると、照井さんはその熊の石膏型に、ぎゅうぎゅうと砂まじりの粘土をちぎっては押しつけ、ちぎっては押し付けしておられました。
「倉敷はこの自由な雰囲気がほんとうに好きなんです」と言いながらいつも様々な実演をしてくださる照井さんは、今年が10回目の出展。
他にも実演をしてくださるベテランの出展者の方々はみな倉敷の雰囲気が好き!と口々に言って私たちをはげましてくれます。
神奈川県でThink!Forest森想木工舎という工房を構える田澤祐介さんはフィールドオブクラフトは4回目。木工の方のブースはどこも温もりを感じさせてくださるのですが田澤さんのブースは温もりに満ちていながらもすっきりと軽やかな印象の器が並んでいました。
手にもっておられるコーヒーメジャーはなんと、お茶道具の柄杓を縮小した形。手間が多くて作るのは大変じゃないんですか?と聞いてみたら「組むところはちょっと精度が要ります。でも柄杓と同じようにパーツに分けて作るから木を余すところが少なくて良いんです。」
小さな端材や節もうまく使ったり木の作り手は、ほんとうに木に、自然に優しい方ばかりですね。
越後上布の現在材料、からむし。福島県昭和村の織姫制度にて、からむしの栽培、糸績み、織りを学び、からむし織りを広めようと活動をされている、埼玉県のますみえりこさん。初出展のますみまさんに「からむしってなんですか?」と聞いてみました。
答えは草でした。「苧麻という草を育て、気の遠くなるような作業を経て、糸にし、織ることで布ができあがるんです。」ますみさんは、そのからむしという素材そのものの魅力を伝えたいのだそうです。
荒く織られた布は透き通るような透明感となんともいえない素朴さとあたたかな風合いでした。
最後は地元岡山県から初出展の日高伸治さんと、日高直子さんのご夫妻。
轆轤引きした器を、彫り模様がある型にはめて模様が浮き上がって見える陽刻の器を作る方法を説明してくださる伸治さん。
「ここまで縮みます。」
焼き締め、灰釉、陽刻、染め付け、と多彩な方法を使われていますが、並べてみるとどれも食卓で実直に働く姿を想像できるものばかりです。「これとこれは、同じ土、同じ形、違う薬。あっちとこちは違う土、同じ形、同じ薬。」ひとつづつ話を聞くと器たちの個性がどんどん見えてくるようになりました。
骨董を写した形に、古いモチーフの図案がどことなくユーモラスに描かれた小皿たち。逆に新鮮さを感じさせる染め付けは、奥さんの直子さんの作品です。
「はい、箱ものの蓋の裏にも。」使う人にしかわからない演出が心憎いですね。
岐阜から岡山の瀬戸内市に3年前に移住してこられた日高さんご夫妻は、移住する前から出たいと思い、昨年はお客様として来てくださっていたそうです。はじめて見てもらえる機会ができた事をとても嬉しかったとお話してくださいました。
会場をあるいて、作り手のみなさんからお話を聞くのはとても楽しい時間でした。
きっとご来場頂いた皆さんそれぞれに、いろんな話を聞いて、良い時間をすごされたのだろうなと思います。
すべての作り手のみなさんをご紹介することができないのは残念ですが、またの機会にお話を伺えたらと思います。