【連載】 委員長 往復書簡 (2)
2017年01月13日
宮井宏さま
こんにちは。のとじま手まつり実行委員会(のて)実行委員長の有永浩太と申します。本当にお会いしたのは、偶然でしたね。実は昨年、フィールドオブクラフト倉敷を見に行ってたんです。その数ヶ月後に、まさか実行委員長とお会いするとは思ってもいませんでした。しかも同い年とは。縁を感じますよね。
僕は、石川県の能登島を拠点に、吹きガラスの作家として活動をしています。吹きガラスをはじめたのは倉敷で、当時出来たばかりの倉敷芸術科学大学でした。そこでの小谷眞三先生との出会いが、僕が今作り続けている上での一つの指針になっています。在学中に、いつか自分の工房を持つことを決めて、そのための経験を積むために各地の工房で働きました。福島県、東京の新島、その後今住んでいる能登島に移り住みました。そこで、のとじま手まつり前実行委員長の田口さんと出会ったんです。その後、仕事で金沢に移りましたが、2016年4月、能登島に自分の工房を持つために再移住しました。
実は、最初に能登島に移った時には、クラフトフェアというものを、よく知らなかったんです。ガラス作家として駆け出しで、とにかくいろんなところに出してみようと思いはじめた頃だったんですね。その時に田口さんや、のとじま手まつりに関わる人達と出会い、出展しながら、実行委員としても関わるようになりました。それを5年続け、能登島に移る2016年になって、田口さんから実行委員長をしないかと言われました。正直、僕は作り手で、運営に関しても分からないことが多いくらいだったんですが、のとじま手まつりも10年を越え、これまでの10年から、これからの10年へ転換して行きたいという思いが強くなってきたことと、僕自身の環境の変化のタイミングが合ったといいますか、なんとなく予感があったと言いますか、引き受けてしまったんです。
のとじま手まつりがはじまったきっかけは、地元で作家を目指している人達が作品を発表できる場を作りたいというものでした。手まつりを通じて地域の人にクラフトを知ってもらい、将来クラフト作家が移住して来るような土壌を作れたら、という思いもありました。能登島のWeランドというキャンプ場でのイベントは、アクセスが良いとは言えない場所で、当初は閑散としていたそうですが、それでも、来場者も出展者もスタッフもこの会場での手まつりがすごく楽しくて、満足感と充実感がめちゃくちゃあったんですって。まさに会場にいること自体を楽しめる、このロケーションの良さというのが最大の魅力であり、モチベーションを保ち続けられている要因なんです。
10年を経て、のとじま手まつりについて、改めて話す機会を持ったんです。そこで出てきた話なんですが、手まつりに関わることで、身近にクラフトのある暮らしが出来ているということが、形になってきている。と感じられて、それがとても貴重なことだと思えるんです。専門的な知識を持ったものがいるわけでもないですし、仕事としてクラフトに関わっているものも少ないのですが、自分たちがそうして実感したことを共有したい、伝えたい、という思いが強くなってきたと感じたんです。
初めてクラフト作品を買って、買い足して、自分の生活に増えていく中で、今までと違った価値観っていうものが広がっていくかもしれない。手まつりが、その「最初の一個」のきっかけになれたら嬉しいですし、暮らしにクラフトが入っていく場となっていけたらいいですね。そして、毎年この会場が、それを確かめられる場としてありたいと思います。
それと、毎年試行錯誤をしながらですが、クラフトフェア「のとじま手まつり」とは別に、「のて活動」と称して、能登の暮らしの実践や紹介、作り手や伝え手の話を聞く会を催したりもしています。地元の人たちにクラフトを日常的に知ってもらうこと、能登以外の人たちに能登暮らしを知ってもらうこと、そして将来、作り手と使い手が共にこの地域に増えていけたら、と思っています。その一貫として、2016年から新たに、能登に根ざしたモノづくりを知ってもらう試みをはじめました。クラフト作家ではなく、産業として作り続けている方達に出展していただき、話を聞く機会を持ちました。出展してくださる作家の方も、日本各地から来てもらえるようになってきて、その人達と能登のモノづくりが出会う場として、のとじま手まつりが機能できればいいなと思っています。
僕自身が、2016年から能登でのモノづくりをはじめることにしたわけですが、すごく魅力的な場所なんですね。ここで出来ることを作り手の立場から、少しづつでも伝えられたらと思っています。
僕と宮井さんとは、共感できる部分が多いと思いますが、作り手と伝え手と言いますか、クラフトへの関わり方が全く別の方向からなんですよね。それなのに偶然同じタイミングで同じような立場になった宮井さんに興味を持ちますし、だからこそクラフトやそれを取り巻くことについて話してみたいと思ったんです。
僕はガラスという素材を使って、日常の器も作りますし、美術工芸品というような作品も作ります。ガラスをどうすれば日常の中に取り入れていけるか考えたり、ガラスを通してどんな表現ができるかを考えながら制作を続けています。そんな中で作品は、クラフト、工芸、民藝、ガラスですとグラスアート、いろんな呼ばれ方をしますが、それはどんなふうに知られていることなんだろうか? どんなふうに伝えられるんだろうか、と考えたりします。クラフトフェアに関わる者としても、作り手としても、クラフトという言葉のイメージがどのようなものなのか気になるところなんです。
宮井さんにとってのクラフトというのは、どんなふうにとらえられているものなのか、お聞かせいただきたいと思います。お忙しいとは思いますが、風邪などひかれませんようお過ごしください。
2017年1月 能登島より
有永浩太